2022年12月3日土曜日

『サバクノ航海』をデザイナーズノート形式で紹介

基本情報

タイトル:サバクノ航海 / Desert Crossing

プレイ人数:2~4人

プレイ時間:15分~

ジャンル:同時入札ゲーム(バッティングゲーム)

作:yio / Yirli'kumde

用具

 商品(0~5) 6枚

 町 18枚

 はじまりのキャラバン 1枚

 ボーナスキャラバン 3枚

 案内人 1枚

概要

『サバクノ航海』は,商品を手に入れて,町を訪れ,売却することで最高の商人を目指す,同時入札ゲームです.

プレイヤーはラウンドごとに商品の入手を試みますが,他の人と狙いが被ってしまうと失敗となります.

しかし,案内人だけは,他の人と被ったときのみ商品を入手できます.全員が入手した商品によって次に訪れる町が決まり,町では需要に最も応えられる一人だけが商品を売却して,財産を得ることができます.

他のプレイヤーの思考を読んで入札をして,最高の商人を目指しましょう.

デザイナーズノート

サバクノ航海は,『Frog Step Jump』から派生したゲームです.元々は主にプロダクト面での変更を念頭に置いてリメイクしようと思ったのが制作のきっかけでした.

Frog Step Jumpを簡単に説明すると,カエルがゲームボード上で円環状に並んだハスノハの上を1~3マスか進むので,進む先のマスに書いてある数字の権利(カエルが停まったら点数がもらえる権利)を同時入札で取り合うというバッティングゲームです.以下のような特徴がありました.

  1. 何マス進むかは権利の移動後にサイコロによって決まるため,狙い通りに取れても得点に繋がるかどうかに運が絡むこと,
  2. 入札には1セットずつ配られたカードを使い,使ったカードを手に戻すかどうかは親が入札直前に決められるため,他人が入札できる数字を考慮する必要があること,
  3. 既に権利のある数字に入札してブロックすることができるが,他の人が入札しなかった場合はブロック失敗となり,逆に権利を失うことになること,
  4. 数字の権利を持っていることを示す自分のマーカーが,自分の10点マーカーと兼用であるため,勝っている人ほど数字の権利の保持上限数が減ること

この元となるゲームに対して,ボードをなくし,コンポーネントの全てをチップ(タイル)などにしてコンパクトにできないかと試行錯誤していました.見た目にもこだわりたく,テーマに関係のないコンポーネントは並べなくてもいいようにできないかとも考えていました.

ゲームで実現したいことの芯は把握できているので,これを崩さない範囲で変更案を検討していきました.しかしコンポーネントの変更は,ゲームのプレイ感に大きな影響を及ぼすので単純にはいきません.また,基本的にルールの最終決定などは自分の好みを反映させるのですが,10年の時を経て現在の好みも変わっているので,全く同じルールでのリメイクは最初から考えておらず,ルールにも調整を加えることが前提です.

さて,この調子で開発記を書いていくと話が発散して書き終わらないので,過去のメモを取り出して変遷を追っていくことにします. 

テーマとシステムの接合

メモ「石を投げ込んだらカエルがすすむ」

タイルのハスノハを円環状に並べることで,臨場感がアップしました.その一方で,なぜカエルが進むのか?何を同時入札で競っているのか?など,ゲーム内容とテーマとの乖離が気になってきました.これに対して,石を投げ込むことで入札意思を表現し,石が投げ込まれることによってカエルが動くというのが面白そうでは?というアイデアです.

システム的には,コインを使った握り競りにテーマを付けたと捉えることもできます.石の回収ルールなども元ルールを踏襲することで,ちょっと違うけど入札制限も機能させられそうと考えてたのですが,投げた石を数えて→権利を移動させて→カエルを移動させてという感じで,それほどテンポも改善できなそうだったため,いったんお蔵入りになりました.このゲームの持っているプレイ感を損なわない範囲で調整しようとすると,権利の獲得とカエルの進行の2フェーズはどうしても必要になりそうというところから抜け出すことができなかったわけですが,カエルの進み具合を予想するという小さなテーマではもっとテンポアップが必要と考えたためです.

もっと大きなテーマに

メモ「カエル改めラクダ」

そこでとった手が,テーマを大きくすることでテンポはそのままでヨシということにしてしまうというものです.カエルをキャラバンに,ハスノハを都市とし,行商するというテーマにザックリと置き換えることにしました.元々ノンテーマだったハスノハに描かれている数字は,都市において需要のある商品となったため,タイルには町と商品アイコンを描く必然性が出てきました.これは現在の形と同じです.

また,前段でお蔵入りした,石で入札してそのうち回収するという入札制限のルールは生かせないか?と考えたものの,ラクダに石を投げるわけにもいかず,同様のルールを表現するために,一本道の入札トラックを使った方式を実装しました.トラックには,権利が欲しい商品の他に,ワイルドカードに近い”商人”と,自分の権利を守る”ブロック”のマスを実装しました.

トラックを進んでアイコンに従うという方式はなんとなく今風で,悪くはなかったのですが, このトラックは何なん?というところに引っ掛かりがありました.最初のほうに書いた通り”テーマに関係のないコンポーネントは並べなくてもいいようにできないか”を考慮してのことです.

試行錯誤期

まず,前段の入札トラックを取っ払います.トラックの数は8(商品6個と商人とブロック)だったので,これを全てカードに置き換え,両手の指を使ってカードに対応する数字に入札する方法に変更しました.

どうせならサイコロも削除しようということで,”いっせーの~(指スマ~?)” 方式でキャラバンを進める方式も検討しました.しかしこれは,作りたい確率を表現するために一工夫が必要で,結果として不必要に複雑になってしまったため不採用になりました.

一方で,ゲームマーケットチャレンジなる話が出てきて,それ用に調整したりしなかったりするかどうかという話をしたのもこの時期だった記憶があります.(しかし,チャレンジについて最悪失敗してもいいやくらいの気持ちで開発を進めることにしました.)

試行錯誤期(混迷期ともいう)に一周回って落ち着いた入札方法では,入札制限をも取っ払ってしまったために,バッティングゲームが持つ最も典型的な問題が表面化しました.題して「俺○○出すよ問題」です. いずれかのプレイヤーが出す手を宣言してしまうと,他のプレイヤーはそれに被せるメリットがないため”言い得”になってしまう問題です.元のルールでは入札制限によってかなり緩和できていましたが,入札をシンプルにすることで(せざるを得なくなったことで)避けられない問題になりました.

バッティング×裏切者

メモ「いつでも欲しいものが狙えるシンプルなバッティングゲーム」

前段の問題に対して,2日くらい考えて出した答えが”裏切者”の存在でした.現在の”案内人”です.通常のプレイヤーは「誰かと被ったら失敗」なのに対して,案内人は「誰かと被ったときだけ成功」という非対称な存在です.コミュニケーション色が強めのゲームなどに裏切者が混ざることで,発言などに慎重さを要するものにできることがあります.”顔色伺い”は本来あまり歓迎されないのかもしれませんが,そもそもバッティングゲームなので顔色伺い上等で,人読みゲームに振り切ることにしました.

結果として,”ワイルドカード”や”ブロック”といった特殊な役物を入れなくとも十分思惑が交錯する形になったので,いつでも商品6個の取り合いをするだけ,というシンプルなバッティングゲームに落ち着かせることができました.入札も片手で可能になりました.

調整

骨組み以外では以下のような部分を調整しました.結果的に,元のゲームとはかなり違うゲームになりました.ただし意図したようにプレイ感はほとんど維持していると思います.

  • キャラバンの移動範囲は制限せず,町の需要を全て満たすという条件でどこまでも移動する
  • 案内人は誰か1人が担当していることが最低条件なので,ゲーム中は固定ではなくたまにプレイヤー間で交替が起こる(実際には固定でも問題はない)
  • 点数が1軸だと逆転が困難なゲームが生じるので,特に後半に伸びやすい(けれどもそう容易くは勝てない)2軸目を加える
  • 入札の失敗が続いても最悪ゲームが停滞しないために,案内人交替にボーナスを加える

タイトルが一向に決まらなかった

タイトルが確定したのはルールブックを公開した日(ゲムマの1週間前くらい?)です.

あまり砕けたタイトルは好みではなく,硬いタイトルはゲームの性質とマッチせず,非常に難産でした.

決定した『サバクノ航海』について,横文字はDesert Crossingです.「Crossing」は,偉大なる和製バッティングゲームである『Xing』の英語版タイトルから拝借しました.Crossingにあてた「航海」の訳は,砂漠を海になぞらえて漂うスケール感が出せたため気に入っています.自分の選択に大いに「後悔」することも楽しみの一つですし,ゲームも所謂裏向き一斉「公開」というメカニクスを採用しているので,コウカイのトリプルミーニングにもできました.最後に,「砂漠の航海」だと唯一性が低すぎたため,「サバクノ」にしたのは逃げの一手です.その安直さに少しだけ後悔しています.まあOK!

ゲームマーケットチャレンジ,失敗か,脱法か

上のような製作の裏では何やら不穏なことを呟いていました.

https://twitter.com/sounio120/status/1577593679128449024

https://twitter.com/sounio120/status/1581971493038456832

その結果生まれたのが,『サバクノ航海・拡張セット:商人たち』です♪

ゲムマ2022秋での頒布価格は,本体490円,拡張10円でした.

ルールブック

ルールブックは以下からダウンロードできます.

https://drive.google.com/drive/u/1/folders/1jzKPezltiuzwLYpFrmC4dViq0dnc-pZ7

お問い合わせ

作者のTwitter:@sounio120

メール:yirlikumde[at]gmail.com

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